広島地方裁判所 平成8年(行ウ)6号 判決 1999年2月18日
広島市中区三川町三番二二号
原告
株式会社島田画廊
右代表者代表取締役
島田恭次
右訴訟代理人弁護士
村上充昭
広島市中区上八丁堀三―一九
被告
広島東税務署長 小島隆嗣
右指定代理人
吉田尚弘
同
山﨑保彦
同
吉岡隼夫
同
小笠原建治
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対して平成五年二月二六日にした次の各処分を取り消す。
(一) 法人税
(1) 原告の平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの事業年度の法人税についての更正のうち、納付すべき税額金二二八八万四三〇〇円を超える部分及び同事業年度の法人税の重加算税賦課決定処分
(2) 原告の平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度の法人税についての更正のうち、納付すべき税額金八二七万〇二〇〇円を超える部分
(二) 消費税
(1) 原告の平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの課税期間の消費税についての更正のうち、控除不足還付税額金三九〇万五三一五円を超える部分(ただし、審査裁決によって一部取り消された後のもの)
(2) 原告の平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの課税期間の消費税についての更正のうち、納付すべき税額金五一〇万一三〇〇円を超える部分並びに同期間の消費税の過小申告加算税及び重加算税の賦課決定処分
(3) 原告の平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までの課税期間の消費税についての更正のうち、納付すべき税額金一〇六万四二〇〇円を超える部分及び同期間の重加算税の賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、美術工芸品の売買及びレンタル並びに仲介等の取引に関する業務等を目的とする株式会社である。
2 確定申告
(一) 法人税
原告は、平成元年七月一日から平成二年六月三〇日まで(以下「平成二年六月期」という。)及び平成二年七月一日から平成三年六月三〇日まで(以下「平成三年六月期」という。)の各事業年度(以下、両事業年度を併せて「本件各係争事業年度」という。)の法人税につき、別表一及び二の確定申告欄記載のとおりに確定申告をした。
(二) 消費税
原告は、平成元年七月一日から平成二年六月三〇日まで(以下「平成二年課税期間」という。)、平成二年七月一日から平成三年六月三〇日まで(以下「平成三年課税期間」という。)及び平成三年七月一日から平成四年六月三〇日まで(以下「平成四年課税期間」という。)の消費税につき、別表三ないし五の確定申告欄記載のとおりに確定申告をした。
3 更正処分等
(一) 法人税
被告は、原告に対し、平成五年二月二六日、別表一及び二の更正処分欄記載のとおり、原告の本件各係争事業年度分の各所得金額及び納付すべき税額を更正する旨の処分をした。
また、被告は、別表一記載のとおり、右更正処分と併せて、平成二年六月期分の法人税につき重加算税の賦課決定処分をした。
(二) 消費税
被告は、原告に対し、平成五年二月二六日、別表三ないし五の更正処分欄記載のとおり、原告の本件各係争課税期間分の課税標準額、控除対象仕入税額及び納付すべき税額を更正する旨の処分をした(なお、平成二年課税期間分に係る更正処分については、控除対象仕入税額及び納付すべき金額につき、審査裁決により別表三の審査裁決欄のとおり一部取り消された。)。
また、被告は、別表四及び五記載のとおり、右各更正処分と併せて、平成三年課税期間につき過少申告加算税の賦課決定を、さらに、平成三年及び同四年の各課税期間分につき重加算税の賦課決定をした(なお、平成四年課税期間分の重加算税の賦課決定は、審査裁決により別表五の審査裁決欄のとおり一部取り消された。)。
4 被告のした右3の各処分は、いずれも事実に基づかず、法令の解釈を誤っており違法である。よって、原告は、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の各事実はいずれも認め、その余は否認ないし争う。
三 被告の主張
1 法人税更正処分及び賦課決定処分の適法性
(一) 平成二年六月期の法人税更正処分
(1) 所得金額
原告の平成二年六月期の所得金額は、原告の申告に係る所得金額五九〇五万三五二五円に、次の加算・減算を行った九七七二万〇六三一円である。なお、その計算過程は、別表八(加算及び減算の内訳表)の平成二年六月期欄記載のとおりである。
イ 加算項目
<1> 期末棚卸資産計上漏れ 一億二九一二万六二一四円
後述(2)のとおり。
<2> 期末棚卸資産過小計上 一四〇万円
原告は、寺内萬次郎作「若い女」の期末棚卸資産額は一五九万〇〇五六円が正当な金額であるのに、一九万〇〇五六円と過小に申告した。
よって、その差額一四〇万円を計上漏れとして棚卸資産の額に加算すべきである。
<3> 雑益の計上漏れ 一一五円
後述2(一)の消費税の更正処分に伴う税額計算の端数処理額として一一五円の雑益が生じた。
よって、一一五円を加算すべきである。
ロ 減算項目
<1> 売上の過大計上 八五四三万六八九三円
後述(2)のとおり。
<2> 雑損失認容(消費税) 六四二万二三三〇円
後述2(一)の消費税更正処分により、原告の消費税の納付すべき金額は六四二万二三三〇円増加した。
よって、右金額は損金の額に算入したものである(なお、右は裁決により一部取り消された後の額である。)。
(2) 期末棚卸資産の計上漏れ及び売上の過大計上(平成二年六月期における原告の仮装取引)
<1> 原告は、別表六の「作者及び作品名」欄記載の<1>ないし<4>の各絵画(以下、これらの絵画を併せて「甲絵画」という。)を平成二年六月八日に関西美術商連盟(以下「関美連」という。)が開催した交換会を通じて、有限会社ギャラリーアイ(以下「ギャラリーアイ」という。)に対し合計八八〇〇万円で売却したとして(以下「甲売買」という。)、これを売上げに計上した(なお、代金の内訳は、別表六の「関美連交換会売上金額」欄記載のとおりである。)。
<2> しかし、甲売買は、原告とギャラリーアイの実質的経営者である髙田正(以下「髙田」という。)との通謀虚偽表示による仮装の売買である。
<3> したがって、甲絵画は平成二年六月期の事業年度における期末棚卸資産となる。よって、これを法的評価方法によって算出した金額である前記(1)イ<1>の金額(これは、甲絵画の仕入原価である別表六の当初仕入金額合計一億三三〇〇万円から消費税額を控除した金額である。)を所得金額に加算すべきである。
また、甲売買による売上げは仮装の売上げであるから、この売上価額である前記(1)ロ<1>の金額(なお、消費税額を控除した額である。)を減算すべきである。
(3) 以上によれば、被告がした平成二年六月期の法人税の更正処分は、前記(1)の所得金額の範囲内で行われているから、適法である。
(二) 平成三年六月期分の法人税更正処分
(1) 原告の平成三年六月期の所得金額は、原告の申告に係る所得金額二四四五万九九六三円に次の各金額を加算・減算した二八九六万二一二二円である。なお、その計算過程は、別表八(加算及び減算の内訳表)の平成三年六月期欄記載のとおりである。
イ 加算項目
<1> 期末棚卸資産計上漏れ 六四八五万四三六九円
後述(3)のとおり。
<2> 期末棚卸資産過小計上 二九七六万一一六六円
原告は、平成三年六月期の期末棚卸資産の額について、奥村土牛作「鵜」の棚卸資産額は三二〇三万八八三五円が正当な金額であるのに、二二七万七六六九円と過小に申告した。
よって、その差額二九七六万一一六六円を期末棚卸資産過少計上として棚卸資産の額に加算すべきである。
<3> 仕入れの過大計上 八七一四万五六三一円
後述(2)のとおり。
ロ 減算項目
<1> 売上の過大計上 三二〇三万八八三五円
後述(3)のとおり。
<2> 期首棚卸資産の認容 一億三〇五二万六二一四円
ⅰ 前述(一)(2)のとおりであるから、甲絵画は平成三年六月期の期首棚卸資産となる。
ⅱ また、前述(一)(1)イ<2>の期末棚卸資産過小計上額も期首棚卸資産の額に加算すべきである。
ⅲ よって、以上の合計額である一億三〇五二万六二一四円を所得金額から減算するべきである。
<3> 雑損失認容(消費税) 一〇三一万九四一六円
後述2(二)の消費税の更正処分により原告の納付すべき税額は一〇三一万九四一六円増加した。
よって、損金の額に算入し、これを所得金額から減算すべきである。
<4> 雑損の認容 四二円
後述2(二)の消費税の更正処分により、税額計算の端数処理額四二円が生じた。
よって、雑損として損金の額に算入し、これを所得金額から減算すべきである。
<5> 未納事業税の認容 四三七万四五〇〇円
平成二年六月期の原告の所得金額が増加するに伴い、同三年六月期の未納事業税として四三七万四五〇〇円を損金の額に算入することとした。
(2) 仕入れの過大計上(平成三年六月期における原告の仮装仕入)
<1> 原告は、平成二年七月九日ギャラリーアイから甲絵画を別表六の再仕入金額欄記載の金額(合計金額八九七六万円)で仕入れた(以下「甲仕入」という。)として、同日付で、仕入計上を行った。
<2> しかし、右取引は、前記(一)(2)の甲売買と一連の取引であり、原告が利益の圧縮を目的として、高田との間の当初の通謀に基づき行った仮装取引である。
<3> したがって、甲仕入の仕入計上は過大計上となるから、右仕入金額から消費税額を控除した八七一四万五六五三一円を所得金額に加算すべきである。
(3) 期末棚卸資産計上漏れ及び売上げの過大計上(平成三年六月期における原告の仮装取引)
<1> 原告は、別表七の「作者及び作品名」欄記載の<1>及び<2>の絵画(以下、これらを併せて「乙絵画」という。)を、平成三年六月八日、関美連が開催した交換会を通じて、株式会社ギャラリーなかつみ(以下「ギャラリーなかつみ」という。)に対し、別表七の「関美連交換会売上金額欄記載の合計金額(三三〇〇万円)で売却したとして、売上計上した(以下「乙売買」という。)。
<2> しかし、乙売買は、甲売買と同様、利益の圧縮を目的として行われた、原告とギャラリーなかつみとの間の通謀による仮装の売買である。
<3> 計算
イ したがって、乙絵画は、平成三年六月期の期末において、原告所有財産となり、右事業年度における期末棚卸資産となる。よって、これを法的評価方法に従って算出した金額である前記(1)イの金額(これは、乙絵画の仕入原価である別表七の仕入合計額六六八〇万円から消費税額を控除した金額である。)を所得金額に加算すべきである。
ロ また、乙売買に係る売上げは仮装の売上げであるから、平成三年六月期の売上金額から前記(1)ロ<1>の金額(乙売買の売上合計額から消費税額を控除した額)は、所得金額から減算すべきである。
(4) 以上によれば、被告のした平成三年六月期分の更正処分は、前記(1)の所得金額の範囲内で行われているから、適法である。
(三) 賦課決定(平成二年六月期に係る重加算税)
前記(一)のとおり、平成二年六月期の法人税の更正処分は適法であるが、原告が利益の圧縮を図る目的で、甲売買に係る売上げを仮装し、かつ、甲絵画を期末棚卸資産から除外した行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことに該当する(国税通則法六八条一項)。
よって、平成二年六月期の重加算税賦課決定処分は適法である。
2 消費税更正処分及び賦課決定処分の適法性
(一) 平成二年課税期間の消費税更正処分(ただし、裁決により一部取り消された後の額)
(1) 課税標準額 三八億七五二四万二〇〇〇円
<1> 原告の平成二年課税期間分の確定申告書に記載された課税標準額は三九億六〇六七万九〇二九円である。
<2> 前記1(一)(2)のとおり、甲売買は仮装取引であるからその売上計上は過大計上となる。
したがって、右売上げに係る課税売上高八五四三万六八九三円は平成二年課税期間の消費税の課税標準額から減算すべきである。
<3> よって、平成二年課税期間の原告の消費税課税標準額は三八億七五二四万二〇〇〇円となる(国税通則法一一八条により、千円未満の端数を切り捨てた額である。以下、同じである。)。
(2) 課税標準の額に対する消費税額 一億一六二五万七二六〇円
右(1)の課税標準額に平成六年法律第一〇九号による改正前の消費税法二九条所定の税率である三パーセントを乗じて算出した額である(以下、同じである。)。
(3) 控除対象仕入税額 一億一六三〇万三三五五円
<1> 原告の平成二年課税期間分の確定申告書に記載された控除対象仕入税額は一億二二七二万五六八五円である。
<2> しかし、被告の係官が、原告の平成二年課税期間中の仕入先を調査したところ、別表九の1記載の仕入れにつき、住所が不完全、または、住所地に住民登録等がなかったため、仕入れの事実が確認できなかった。
そこで、係官は、原告代表者島田恭次(以下「島田」という。)に対し、これら仕入先に係る真実の住所や氏名を明らかにするよう求めたところ、島田は、「仲介者を介して取引したため、真実の住所や氏名はわからない。その仲介者の住所や氏名は明らかにできない。その結果、消費税の仕入税額控除を受けられないこととなってもやむを得ない。」旨申述し、係官に仕入取引に関する課税仕入の相手方の真実の氏名等を一切明らかにしなかった。
したがって、右別表九の1記載の仕入れについては、真実の氏名又は名称の記載のある法定帳簿が備え付けられていない。
<3> 消費税法三〇条一項は、課税標準の額に対する消費税額から課税仕入等に係る消費税額を控除することとしているが、同条項は当該課税仕入れ等に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には適用しないとされ(同条七項)、さらに、帳簿又は請求書等には課税仕入れの相手方の氏名又は名称を記載するとされている(同条八項一号イ)。
この場合の「課税仕入れの相手方」とは、真実の取引の相手方をいうのであって、単に氏名又は名称を記載すれば足りるというものではない。
したがって、架空の氏名又は名称が記載されている帳簿又は請求書等は、原則として同条八項及び九項の要件を具備したものとはいえないところ、原告は消費税法三〇条七項所定の帳簿書類を保存していないことになるから、別表九の1記載の各仕入れについては消費税の仕入税額控除を行うことができない。
<4> よって、別表九の1の仕入の消費税額相当額六四二万二三三〇円は仕入税額控除を行うことはできないから、控除対象仕入税額から減算すべきである。
(4) 還付金の額 四万六〇九五円
以上によれば、控除不足額は四万六〇九五円となる(消費税法五二条一項に規定する消費税の還付金の額である。)。
よって、右金額は、平成二年課税期間分の更正処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後の額)と同額であるから、右更正処分は適法である。
(二) 平成三年課税期間の消費税更正処分
(1) 課税標準額 一九億三四二四万八〇〇〇円
<1> 原告の平成三年課税期間分の確定申告書に記載された課税標準額は一九億六六二八万七〇〇〇円である。
<2> しかし、前記1(二)(3)<3>のとおり、乙売買の売上げは過大計上となる。したがって、右売上げに係る課税売上高三二〇三万八八三五円は平成三年課税期間の消費税の課税標準額から減算すべきである。
(2) 課税標準の額に対する消費税額 五八〇二万七四四〇円
右(1)の課税標準の額に三パーセントを乗じて算出した額である。
(3) 控除対象仕入税額 四〇九五万三四四九円
<1> 原告の平成三年課税期間分の確定申告書に記載された控除対象仕入税額は五三八八万七二三四円である。
<2> しかし、前記2(一)(3)と同様、別表九の2の仕入れに係る帳簿及び請求書等に記載された取引の相手方の氏名は真実とは認められなかった。
したがって、右仕入に係る消費税額相当額一〇三一万九四一六円は控除対象仕入税額から減算すべきである。
<3> また、前記1(二)(2)のとおり甲仕入は仮装取引であるから、右仕入れに係る消費税額相当分二六一万四三六九円は控除対象仕入税額から控除すべきである。
(4) 以上によれば、原告が納付すべき税額は一七〇七万三九〇〇円となる(なお、百円未満の端数は、国税通則法一一九条により切り捨てた。以下同じである。)。
よって、右金額の範囲内で行われた平成三年課税期間分の消費税更正処分は適法である。
(三) 平成四年課税期間の消費税更正処分
(1) 課税標準額 七億〇一六三万六〇〇〇円
<1> 原告の平成四年課税期間分の確定申告書に記載された課税標準額は七億〇〇一八万〇三六四円である。
<2> しかし、原告は、平成四年六月二四日、藤岡孝夫に対し、奥村土牛作の絵画「鵜」を代金二〇〇〇万円で売却したとして、これを同日付で売上計上しているところ(以下「丙売上」という。)、右売買は、甲売買及び乙売買と同様、通謀による仮装取引であるから、売上げの過大計上として、右売上げに係る課税売上高一九四一万七四七六円を課税標準額から減算すべきである。
<3> また、原告は、平成四年六月三〇日、ギャラリーチトセ株式会社(以下「ギャラリーチトセ」という。)に対し、淀井敏夫作のブロンズ像「ローマの公園」を二五五〇万円で売却した。
しかし、原告は右売買に係る課税売上高を四〇〇万円と過小に申告した。
よって、右差額である二一五〇万円から消費税額を控除した二〇八七万三七八七円を課税標準額に加算すべきである。
<4> 以上によれば、平成四年課税期間における原告の課税標準額は七億〇一六三万六〇〇〇円となる。
(2) 課税標準の額に対する消費税額 二一〇四万九〇八〇円
右(1)の課税標準の額に三パーセントを乗じて算出した額である。
(3) 控除対象仕入税額 一八九五万一一九五円
<1> 原告の平成四年課税期間分の確定申告書に記載された控除対象仕入税額は一九九四万一一九五円である。
<2> 原告は、平成三年七月二〇日、ギャラリーなかつみから乙絵画を別表七の再仕入金額欄記載の金額(合計三三九九万円)で仕入れた(以下「乙仕入」という。)として、仕入計上している。
しかし、前記1(二)(3)のとおり、乙売買は通謀虚偽表示による仮装取引であり、右乙仕入は乙売買と一連の取引であって仮装仕入となるから、乙仕入に係る消費税額相当額九九万円は控除対象仕入税額から減算すべきである。
<3> よって、控除対象仕入税額は一八九五万一一九五円となる。
(4) 納付すべき税額 二〇九万七八〇〇円
以上によれば、原告の納付すべき税額は二〇九万七八〇〇円となり、右金額の範囲内で行われた平成四年課税期間分の消費税の更正処分は適法である。
(四) 賦課決定処分の適法性
(1) 平成三年課税期間の消費税の過小申告加算税賦課決定処分
前記(二)のとおり平成三年課税期間の消費税更正処分は適法である。
そして、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実(別表九の1記載の仕入の過大計上)が更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条に規定する正当な理由はない。
よって、平成三年課税期間の過小申告加算税賦課決定処分は適法である。
(2) 平成三年及び同四年課税期間の重加算税賦課決定処分
前述のとおり、原告は、乙売買を仮装して平成三年課税期間において仮装の売上げを計上し、かつ、平成三年課税期間及び同四年課税期間において、甲仕入・乙仕入及び丙売上を仮装して仮装の取引を計上した。
このような原告の行為は、国税通則法六八条一項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことに該当するから、平成三年課税期間及び同四年課税期間(過少申告加算税に変更された部分の額を除く。)の消費税の重加算税の各重加算税賦課決定処分は適法である。
四 被告の主張に対する認否・反論
1 被告の主張1について
(一) 同(一)について
(1) 同(1)の本文のうち、原告が所得金額を五九〇五万三五二五円と申告したことは認める。その余は否認する。
(2) 同(2)について
<1> 同<1>は認める
<2> 同<2>及び<3>は否認する。原告は、平成二年当時、絵画の取引価額がいわゆるバブル経済の崩壊により暴落することが予想されたこと及び資金繰りの必要性等から換金を急ぐべき事情があったため、甲絵画を売却したものである。よって、甲売買は、通謀による仮装の取引ではない。
(3) 同(3)は否認ないし争う。
(二) 同(二)について
(1) 同(1)の本文のうち、原告が所得金額を二四四万九九六三円と申告したことは認める。その余は否認する。
(2) 同(2)について
<1> 同<1>は認める。
<2> 同<2>及び<3>は否認する。
(3) 同(3)について
<1> 同<1>は認める。
<2> 同<2>及び<3>は否認する。
(4) 同(4)は争う。
(三) 同(三)は否認ないし争う。
2 同2について
(一) 同(一)について
(1) 同(1)について
<1> 同<1>は認める。
<2> 同<2>及び<3>は否認ないし争う。
(2) 同(2)は不知
(3) 同(3)について
<1> 同<1>は認める。
<2> 同<2>の事実は概ね認める。しかし、原告は意図的に氏名を明らかにしようとしないのではなく、当初受領した領収書等が真正なものと思っていたところが、税務調査により架空の氏名であることが判明し、しかも、右各仕入を仲介した者の死亡等により真実の氏名を知ることができなくなったのである。
<3> 同<3>のうち、課税仕入れ等に関する消費税法の各規定は認める。
その余は争う。消費税法三〇条七項が「課税仕入れの相手方」の記載を要求しているのは、真実の取引の有無を明らかにすることを確認するための方法にすぎず、真実取引があったが、その取引の相手方の氏名を特定することが不能な場合には、課税仕入として消費税の税額控除を行うべきである。
<4> 同<4>は否認ないし争う。
(4) 同(4)は否認ないし争う。
(二) 同(二)について
(1) 同(1)について
<1> 同<1>は認める。
<2> 同<2>は否認する。
(2) 同(2)は不知
(3) 同(3)について
<1> 同<1>は認める。
<2> 同<2>の事実のうち、別表九の2の各仕入先につき真実の氏名が確認できないことは概ね認める。その余は否認ないし争う。
<3> 同<3>は否認する。
(4) 同(4)は否認ないし争う。
(三) 同(三)について
(1) 同(1)について
<1> 同<1>は認める。
<2> 同<2>の事実のうち、原告が平成四年六月二四日、藤岡孝夫に対し、奥村土牛作「鵜」を代金二〇〇〇万円で売却したとして、同日付で売上計上したことは認める。その余は否認する。
<3> 同<3>の事実のうち、原告がギャラリーチトセに、淀井敏夫作ブロンズ像「ローマの公園」を売却し、右売買に係る売上高を四〇〇万円と申告したことは認める。その余は否認する。
<4> 同<4>は否認する。
(2) 同(2)は不知
(3) 同(3)について
<1> 同<1>は認める。
<2> 同<2>及び<3>は否認する。
(4) 同(4)は否認ないし争う。
(四) 同(四)はいずれも否認ないし争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1ないし3は当事者間に争いがない。
そこで、以下、被告が原告に対して平成五年二月二六日にした本件各処分の適法性につき、順次検討する。
二 平成二年六月期の法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分
1 原告が平成二年六月期法人税の確定申告に際し、その所得金額を五九〇五万三五二五円と申告したことは当事者間に争いがない。
2 被告の主張1(一)(1)イ<2>(期末棚卸資産過小計上)について
甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、寺内萬次郎作「若い女」の期末棚卸資産の額は一五九万〇〇五六円であるのに、原告はこの額を一九万〇〇五六円と申告したことが認められる。
よって、原告は右絵画の期末棚卸資産の額を一四〇万円過少に申告したことになるから、右一四〇万円を所得金額に加算することとなる。
3 被告の主張1(一)(1)(イ)<3>及びロ<2>(雑益の計上漏れ及び雑損失の認容)について
後述四のとおり、平成二年課税期間の消費税について被告がした更正処分は適法であると認められるところ、弁論の全趣旨によれば、これに伴い一一五円の雑益が発生し、かつ、六四二万二三三〇円の雑損失(これは、後述のとおり消費税法三〇条一項による仕入税額控除を適用できない別表九の1の仕入分に係る消費税額相当分である。)が発生したことが認められる。
よって、前記1の所得金額に、一一五円の雑益を加算し、かつ、六四二万二三三〇円を減算することとなる。
4 甲売買の仮装性並びに期末棚卸資産の計上漏れ及び売上げの過大計上
甲売買が原告と髙田との通謀に基づく仮装取引であるか否かについて判断する。
(一) 原告が甲絵画を、平成二年六月八日、関美連の交換会に出品し、ギャラリーアイの実質的経営者である髙田が右絵画を八八〇〇万円で落札したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、右同日、原告と髙田との間で、甲絵画につき代金を八八〇〇万円とする旨の売買契約が成立したものと認められる。
(二) ところで、甲第四号証の2、乙第二、第三、第六号証、第一〇号証の1、2、証人髙田正の証言、同金気仁史の証言及び原告代表者本人の尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 平成二年五月末ころ、島田は、関西の画商であり、かつ、同人と親しい関係にあった髙田に対し、「同年六月八日に開催される関美連の交換会で、甲絵画を出品するが、買戻し条件を付けるから、競り落として欲しい。」旨依頼した。
(2) 髙田は右依頼に応じて、平成二年六月八日に開催された関美連の交換会における競り(オークション)において、何の条件もなく自己のために買い受けるのであれば合計で六〇〇〇万円程度が適当な価額であると考えたが、島田が買戻す旨を聞いていたため、他の業者の手に渡らないであろうと高田が考えた価額(八八〇〇万円)で甲絵画を落札した。
(3) 髙田は甲売買を自己が実質的に経営するギャラリーアイの取引としたが、ギャラリーアイでは、甲売買は例外取引であるとの認識から甲絵画を仕入れ計上せず、また、髙田は落札した甲絵画を、同人が代表取締役を務める株式会社ギャラリーアイ大阪の事務所に持帰り保管をしていたが、平成二年六月三〇日には、原告に対し甲絵画を宅急便で送付した。
(4) ギャラリーアイは右甲絵画の返送期日の後の日付(平成二年七月九日付)で、原告に対し甲絵画を八九七六万円で売却した(甲仕入)とする売上計上を行った。
(5) 原告は平成二年八月一日、甲仕入に係る売買代金八九七六万円をギャラリーアイに振込送金したところ、ギャラリーアイは、右振込送金額のうち甲売買の代金額に対応する金額八八〇〇万円を「預り金」として、その余を手数料として経理処理した。
(6) 原告の商品管理並びに仕入れ及び売上げを明らかにするための帳簿には、甲絵画のうち「鵜」は本件更正処分時において原告に在庫としてある旨、「紅梅」及び「石橋」は、平成二年七月二四日に三九〇〇万円及び三二〇〇万円で、消費者金融業者のレイクに、「桃」は平成二年七月一〇日に二七〇〇万円で同じく消費者金融業者のアコム株式会社にそれぞれ売却された旨記載されている。
(三) 右事実関係を前提として、以下、甲売買が原告と髙田ないしギャラリーアイとの通謀虚偽表示による取引であるか否かにつき、検討する。
(1) まず、ギャラリーアイが甲売買及び甲仕入(以下、両者を併せて「甲取引」という。)に係る一連の取引に関して行った経理処理は、甲取引が実態の取引でないことを窺わせるものであるばかりか、甲売買からまもない時点において甲絵画が原告に送付されていること、また、甲仕入に係る売買代金のうち、甲売買の代金に相当する八八〇〇万円につきギャラリーアイは「預り金」として、これを経理処理していることからは、ギャラリーアイ(髙田)は甲絵画を自己の所有物と認識していなかったと推認することができる。
(2) また、甲売買後の取引経過をみても、甲絵画のうち「鵜」については、本件更正処分が行われた平成五年当時に、原告に在庫として存在したのであるから、買戻す理由はなかったものといわなければならず、かつ、甲絵画のその他の三点についても、原告が売却してから一か月ないし一か月半程度の後には原告において、ギャラリーアイヘの売却価額よりもはるかに高額な値段で他に売却できているのであり、これらの事実経過は、絵画という対象物の性質、その価額が著しく高額なものであることを考慮すると、その不自然さを否定することはできない。
もっとも、原告は右に対し、甲売買が行われた平成二年当時、いわゆるバブル経済の崩壊により、絵画取引価額の暴落が予想されたのであるから、甲売買のような取引も不自然ではない旨主張する。しかし、乙第一〇号証の1によれば、平成二年度内に行われた原告の絵画取引の中で損失が生じたのは、甲売買の取引を除いては僅かな取引しかなく、そのほとんどにおいて利益を得ていること、また、前述のとおり「鵜」を除く甲絵画は、甲売買から一か月ないし一か月半程度の後には仕入価額とほぼ同額の値段で売却できているのであるから、平成二年当時、絵画取引市況は、原告が主張するような状況にはなかったといわざるを得ない。
さらに、原告は、会社経営上の資金繰りの必要から、甲絵画を売却して手持資金を取得する必要があったもので、甲売買には合理的理由があった旨主張し、原告代表者本人尋問の結果にも、これに沿う供述がみられる。しかし、右については、島田は、株取引の資金として必要であったとか、銀行預金にしておいて、原告の銀行に対する信用の保持を維持するために必要であった旨供述するが、甲売買に係る代金が株取引資金に使用されたことを窺わせる証拠はなく、また、銀行に対する信用保持の必要性についての島田の供述も客観的な裏付けを欠くから、同供述は採用できない。
(3) 加えて、乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、甲売買が行われた平成二年当時、画商の間において「評価落とし」と呼ばれる税務対策取引が行われることが少なくなかったことが認められる。すなわち、右取引は、自己が仕入れた美術品(A絵画)を他の画商に、仕入れ値より低い価格でA絵画を落札するよう依頼し、右依頼を受けた画商がA絵画を落札した後、落札した画商からA絵画を買い戻すというものであり、これは、法人税法の取得原価主義を利用して在庫の評価価格を下げて売上原価を増加させ、また、売却損を計上することにより、税務上の利益を圧縮することを可能にする取引操作であるところ、本件においては、島田は同人と親しい関係にあった髙田に対し落札を依頼していること、甲売買の売却代金は甲絵画の仕入値より四五〇〇万円も低額な価格であったこと、甲絵画を落札した髙田(ギャラリーアイ)から、甲仕入を行ったとする経理処理が行われていること等、本件甲取引の経緯は、右「評価落とし」の取引操作と酷似する。
(4) 以上を総合すれば、甲売買が真実の取引であったことを窺わせる特段の事情がない限り、甲売買に際し、原告と高田との間で、甲絵画の所有権は移転させないとの合意が成立していたと推認することができる。そして、甲売買が真実の取引であったことを窺わせるような特段の事情は本件では認められない。
よって、甲売買は通謀による仮装取引であると認めるのが相当である。
(四) 計算
右によれば、<1>甲絵画は平成二年六月期の期末棚卸資産となり、また、<2>甲売買の売上げは過大計上となるから、前者についてはこれを原告の所得金額に加算し、後者についてはこれを減算すべきである。そして、右各金額の消費税額を控除した金額は、<1>につき一億二九一二万六二一四円、<2>につき八五四三万六八九三円と認められる。
5 所得金額の算出
以上によれば、平成二年六月期の原告の所得金額は被告主張の通り、九七七二万〇六三一円であり(その計算過程は別紙八のとおりである。)。被告の平成二年六月期の更正は原告の所得金額を九五五〇万七〇三九円とするものであるから、右範囲内で行われた右更正処分に違法はない。
また、右所得金額に基づいて算出された納付すべき税額についても、その算出過程に違法・過誤を窺わせる事情は、本件証拠関係上見当たらない。
6 よって、被告がした平成二年六月期の法人税更正処分は適法である。
7 そして、右のとおり、被告のした平成二年六月期の法人税更正処分は適法であるところ、前記4のとおり、原告は、甲売買を仮装して、同期の棚卸資産となるべき甲絵画を棚卸資産から除外しているものであって、原告の右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことに該当する。
よって、同事業年度の重加算税賦課決定処分も適法である。
三 平成三年六月期の法人税更正処分
1 原告が平成三年六月期法人税の確定申告に際し、その所得金額を二四四五万九九六三円と申告したことは当事者間に争いがない。
2 被告の主張1(二)(1)イ<2>(期末棚卸資産の過小計上)
甲第一号証及び乙第一〇号証の1並びに弁論の全趣旨によれば、原告が奥村土牛作「鵜」(以下「丙絵画」という。)の平成三年六月期における期末棚卸資産の額を二二七万七六六九円と申告していることが認められるところ、丙絵画は甲絵画のうちの一つであるから、平成二年六月期の期末棚卸資産となり、かつ、平成三年六月期において右絵画が売却されたことを認めるに足りる証拠はないから、丙絵画は平成二年六月期より継続して原告の在庫となっていたものと認められる。
したがって、丙絵画の期末棚卸資産の額を法定評価方法に従って算出すると、原告の当初仕入れ価額である三三〇〇万円から消費税額を控除した三二〇三万八八三五円となる。
よって、右差額の二九七六万一一六六円を所得金額に加算することになる。
3 被告の主張1(二)(1)(イ)<3>(仕入の過大計上)
前記二4の認定事実及び検討結果を総合すると、甲売買と甲仕入は全体として密接な関係にあることが認められ、したがって、甲仕入もまた、当初の計画に従った仮装取引であったと推認することができる。
そして、甲仕入の仕入合計額は八八〇〇万円であるから、これから消費税額を控除した八七一四万五六三一円を所得金額に加算することになる。
4 被告の主張1(二)(1)ロ<2>(期首棚卸資産の認容)について
前記二4(四)のとおり、甲絵画(価額計一億二九一二万六二一四円)は平成二年六月期の期末棚卸資産となり、かつ、前記二2のとおり、平成二年六月期の期末棚卸資産の額につき、一四〇万円の過小申告があったのであるから、これらの合計額である一億三〇五二万六二一四円が平成三年六月期分における期首棚卸資産額の過小計上ないし計上漏れとなる。よって、右金額を所得金額から減算することとなる。
5 被告の主張1(二)(1)ロ<3>ないし<5>(雑損失、雑損及び未納事業税の認容)
(一) 後述五のとおり、平成三年課税期間の消費税について被告がした更正処分は適法であると認められるところ、弁論の全趣旨によれば、右更正処分に伴い、<1>四二円の雑損、<2>後述のとおり消費税法三〇条一項による仕入税額控除を適用できない別表九の2の仕入分に対応する消費税額一〇三一万九四一六円の雑損失が発生したことが認められる。
(二) また、弁論の全趣旨によれば、前記二の平成二年六月期法人税の更正処分に伴って、未納事業税として四三七万四五〇〇円の雑損失が発生したことが認められる。
(三) よって、これらを所得金額から減算することとなる。
6 乙売買の仮装性並びに期末棚卸資産の計上漏れ及び売上げの過大計上
(一) まず、乙売買の仮装性について検討する。
(1) 原告が乙絵画を、平成三年六月八日、関美連の交換会に出品し、ギャラリーなかつみが右絵画を三三〇〇万円で落札したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、原告とギャラリーなかつみとの間で、乙絵画につき代金を合計三三〇〇万円とする旨の売買契約(乙売買)が成立したことが認められる。
(2) しかし、原告は、乙売買後の日付である平成三年七月二〇日付で乙絵画をギャラリーなかつみから再仕入したとする経理処理(乙仕入。以下、乙売買と乙仕入とを併せて「乙取引」という。)を行ったことは当事者間に争いがないところ、右のような期末時点における絵画の売却及び翌事業年度の期首における絵画の買戻しという取引経過は甲取引に極めて酷似するものである。
(3) また、甲第五号証の1、乙第三、第八号証、第一〇号証の1、原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、<1>原告は、乙絵画のオークションが行われた平成三年六月八日の交換会で、原告は関美連から不出品料三〇〇〇円の支払を請求されてこれを支払っていること、<2>また、右オークションには同業者である日本画廊も出席していたにもかかわらず、乙売買後、日本画廊から島田に対し、乙絵画のうちの「鉢と草」を販売のために貸与してもらいたい旨の依頼があり、島田はこれに応じたこと、<3>ギャラリーなかつみは、乙売買に係る仕入れにつき平成三年六月八日付での仕入計上を行わず、これを原告から乙仕入の売買代金が振込まれた平成三年八月一日に、乙仕入に係る売上とを併せて経理処理を行っていること、<4>乙仕入の後、乙絵画のうちの「バラ」については本件更正処分当時、原告に在庫として残っており、また「鉢と草」については、平成五年四月に原告がその代表者を兼ねている株式会社カレントに三七〇〇万円で売却されていること、以上の事実が認められる。
右事実関係によれば、乙取引の経過は極めて不自然であるというほかない。特に、乙仕入後の乙絵画の取引状況に着目してみると、「鉢と草」を購入している株式会社カレントは島田が代表者を兼ねている会社であることを考慮すると、原告は本件更正処分時点において乙絵画を在庫として保有していると評価できるが、それにもかかわらずギャラリーなかつみへの売却時から約1か月半程度の短い期間で原告が再度の購入を行ったのかについては納得し難いものがあるというべきである。
加えて、原告は、乙絵画は関美連のオークションを通じてギャラリーなかつみに販売されたものであると主張しているが、当該オークション会場に日本画廊の者が出席していたことは島田自身が供述しているところであるにもかかわらず、オークション実施の後に日本画廊から原告に対し、乙絵画のうちの「鉢と草」につき販売活動のための貸与申込みがあったというのであり、このことは、乙絵画は平成三年六月開催のオークションに出品されなかったか、あるいは出品されたとしても、各構成員はギャラリーなかつみが真にその所有権を取得したものではないと理解していたことを窺わせる事情というべきである。
(4) 以上を総合すれば、乙売買もまた、甲売買と同じく、原告とギャラリーなかつみとの間の通謀による仮装の取引であると認めざるを得ない。
(二) 計算
以上によれば、<1>乙絵画は平成三年六月期の期末棚卸資産となり、また、<2>乙売買の売上は過大計上となるから、前者については所得金額に加算し、後者についてはこれを減算することになる。
そして、右金額の消費税額を控除した金額は、<1>につき六四八五万四三六九円、<2>につき三二〇三万八八三五円と認められる。
7 所得金額の計算
以上の次第で、平成三年六月期の原告の所得金額は被告主張の通り、二八九六万二一二二円であり(その計算過程は別紙八のとおりである。)、被告の平成三年六月期の更正は原告の所得金額を二七二五万三三八四円とするものであるから、右範囲内で行われた右更正処分に違法はない。
また、右所得金額に基づいて算出された納付すべき税額についても、その算出過程に違法・過誤を窺わせる事情は、本件証拠関係上見当たらない。
8 よって、被告がした平成三年六月期の法人税更正処分は適法である。
四 平成二年課税期間の消費税の更正処分
1 課税標準額及びこれに対する消費税額
(一) 原告の平成二年課税期間の確定申告書に記載された課税標準額が三九億六〇六七万九〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(二) また、前記二4(四)のとおり、甲売買に係る売上げは過大計上となるから、右売上に係る課税売上高八五四三万六八九三円は、右課税標準額から減算することになる。
(三) よって、平成二年課税期間の課税標準額は、被告主張のとおり、三八億七五二四万二〇〇〇円となり、かつ、これに対する消費税額は消費税法二九条(平成六年法律第一〇九号の改正前のもの。以下、同じである。)所定の税率三パーセントを乗じた一億一六二五万七二六〇円となる。
2 控除対象仕入税額
(一) 原告の平成二年課税期間の確定申告書に記載された控除対象仕入税額は一億二二七二万五六八五円であることは当事者間に争いがない。
(二) そこで、別表九の1記載の各仕入れが、消費税法三〇条一項の仕入控除の適用を受けうるか否かにつき判断する。
(1) 事実認定
当事者間に争いのない事実、証人金気仁史の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、<1>別紙九の1の各仕入れについては、甲第七号証の1ないし4の各領収証がこれを証する原資料となること(以下「本件各領収証」という。)<2>右各領収証には、氏名と住所が記載されているが、住所については住所の表示としては不完全なものもあること、<3>被告の係官金気仁史(以下「金気係官」という。)が、原告に対する税務調査の際、本件各領収証に基づき、これが真実の仕入れか否かを確認するべく調査したところ、住所地が不完全なため仕入先を特定できないか、又は住所地に住民登録がなかったため、そのいずれについても仕入れの事実を確認できなかったこと、そこで、金気係官が原告に対し、右仕入先の真実の住所や氏名を明らかにするように求めたところ、島田は、これらの取引は仲介者を介して取引しもので、直接の面識はなく、かつ、この仲介者を明らかにすることはできない旨述べたため、結局、本件各領収証に記載のある氏名が真実の取引相手であるかを確認できなかったこと、以上の事実が認められる。
なお、原告は本訴における尋問期日において右仲介者を明らかにしたが、同人は既に死亡しており、取引相手を特定できないことに変わりはない。
右事実によれば、本件各領収証は、形式的には氏名の記載は存在するが、その記載はいずれも真実の取引の相手方を記載したものではないといわざるを得ない。
(2) そこで、右のような、真実の取引先を記載していない領収証等の原資料であっても、消費税法三〇条七項にいう帳簿の備付があったと評価できるかにつき検討する。
<1> 消費税法(以下「法」という。)三〇条一項は、事業者の仕入れに係る消費税額の控除を規定するが、右規定は、法六条により非課税とされるものを除き、国内において事業者が行った資産の譲渡等に対して、広く消費税を課税する結果、取引の各段階で課税されて税負担が累積することを予防するため、前段階の取引に係る消費税額を控除することとしたものであると解される。
そして、右控除を行う際には、課税仕入れに係る適正かつ正確な消費税額を把握することが必要となるところ、法三〇条七項は、右のような観点から、同条一項による仕入税額控除の適用要件として、当該課税期間の課税仕入れに係る帳簿等を保存することを要求して、その保存がない各課税仕入れに係る消費税額については仕入税額控除をしないこととし、かつ、法三〇条八項一号イは、右帳簿等には課税仕入れの相手方の氏名又は名称を記載するものとしている。
そうすると、右記載は真実の記載であることが当然に要求されているというべきであり、したがって、仕入税額控除の要件として保存すべき帳簿等には、課税仕入れの年月日、課税仕入れに係る資産又は役務の内容及び支払い対価の額とともに、真実の仕入先の氏名又は名称を記載することを要求していると解される。
ただし、事業者において帳簿に記載した仕入先の氏名が真実であると信じるについて相当の理由がある場合には、結果として真実でない氏名が記載されるに至ったとしても、仕入れに係る消費税額控除は適用されるものと解される。けだし、このような場合にまで税額控除を否定することは事業者に難きを強いることになり、法の趣旨に反する結果となると解されるからである。
<2> そこで、以上を本件についてみてみると、本件領収証はいずれも真実の仕入先の氏名又は名称が記載されておらず、かつ、原告において当該仕入先が真の仕入先であると信じたことにつき相当の理由があったことを認めるに足りる証拠はないのであるから、法三〇条七項にいう帳簿の備付はなかったといわざるを得ず、その結果、法三〇条の仕入税額控除を行うことはできない。
<3> これに対し、イ 原告は、本件は当初は真実の取引先の記載があると思っていたが、後の税務署の調査により真実の取引先の記載がないことが判明したものであり、原告としてはやむを得なかった、また、ロ 絵画取引において真実の氏名を把握することは困難であるから、仕入の実態が認められる以上、仕入税額控除を認めるべきであると反論する。
しかしながら、本件において、原告が仕入先の氏名等が真実であると信じるについて相当の事由があったことを認めるに足りる証拠がないことは右に述べたとおりであり、また、原告が取引先の情報を秘匿するべき事情が仮に存在したとしても、右のような事情を考慮することは、税を公平に負担するという消費税法の趣旨に反することになりかねず、原告の反論を採用することはできない。
(3) したがって、本件仕入先については、仕入税額控除を行うことはできないから、右仕入に係る消費税相当分六四二万二三三〇円は、仕入税額控除額から減算することになる。
(三) よって、平成二年課税期間における仕入税額控除額は、一億一六三〇万三三五五円となる。
3 以上によれば、前記1から2を控除した額は、マイナス四万六〇九五円となるところ、これは消費税法五二条一項により原告が還付を受けられる額となる。そして、被告がした平成二年課税期間の更正処分の納付税額は(ただし、審査請求で一部取り消された後のものである。)、右と同額であるから、右更正処分は適法である。
五 平成三年課税期間の消費税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税賦課決定処分
1 課税標準額及びこれに対する消費税額
(一) 原告の平成三年課税期間の確定申告書に記載された課税標準額が一九億六六二八万七〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(二) また、前記三6(二)のとおり、乙売買に係る売上げは過大計上となるから、右売上げに係る課税売上高三二〇三万八八三五円は、右課税標準額から減算することになる。
(三) よって、平成三年課税期間の課税標準額は、被告主張の通り、一九億三四二四万八〇〇〇円となり、かつ、これに対する消費税額は五八〇二万七四四〇円となる。
2 控除対象仕入税額
(一) 原告の平成三年課税期間の確定申告書に記載された控除対象仕入税額が五三八八万七二三四円であることは当事者間に争いがない。
(二) そこで、別表九の2記載の各仕入れが、消費税法三〇条一項の仕入控除の適用を受けうるか否かにつき判断すると、当事者間に争いのない事実、証人金気仁史の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、<1>別紙九の2の各仕入れについては、甲第六号証の1ないし8の各領収証がこれを証する原資料となるが、前記四2(二)と同様、右各領収証についても、形式的には氏名の記載は存在するが、その記載はいずれも真実の取引の相手方を記載したものではないことが認められる。
そうだとすると、真実の仕入先の氏名又は名称が記載されていない以上、法三〇条七項にいう帳簿の備付はなかったといわざるを得ず、その結果、同条の仕入税額控除を行うことはできない。
したがって、右仕入れに係る消費税相当分一〇三一万九四一六円は、仕入税額控除額から減算することになる。
(三) また、甲仕入に係る消費税額二六一万四三六九円も、前記三3のとおり甲仕入は過大計上であるから、減算の対象となる。
(四) よって、平成三年課税期間における仕入税額控除額は、四〇九五万三四四九円となる。
なお、甲取引については、甲売買及び甲仕入全体が仮装であるから、原告がそのための手数料を支払ったとしても、それに係る消費税額を仕入控除すべき理由はない。
3 以上によれば、前記1から2を控除した額は、一七〇七万三九〇〇円となり、被告のした平成三年課税期間の更正に係る納付税額は右金額の範囲内である一七〇二万二七〇〇円であるから、右更正処分は適法である。
4 過小申告加算税及び重加算税
(一) 過小申告加算税
右のとおり、平成三年課税期間の更正処分は適法であるところ、別表九の2記載の各仕入の過大計上が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項所定の正当な理由があるとは認められないから、被告がした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(二) 重加算税
また、甲仕入及び乙売買に係る売上の計上は、前述のとおり仮装の計上であるから、課税標準等の基礎となるべき事実の一部を仮装又は隠ぺいし、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したこととなる。よって、被告のした重加算税の賦課決定処分もまた適法である。
六 平成四年課税期間の消費税更正処分及び重加算税の賦課決定処分
1 課税標準額及びこれに対する消費税額
(一) 原告の平成四年課税期間の確定申告書に記載された課税標準額が七億〇〇一八万円であることは当事者間に争いがない。
(二) そこで、まず、被告の主張2(三)(1)<2>(丙売上)の取引の仮装性について検討する。
(1) 事実認定
当事者間に争いのない事実、甲第一号証、乙第三号証、第一〇号証の1及び原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
<1> 原告は藤岡孝夫(以下「藤岡」という。)に対し、平成四年六月二四日、丙絵画を代金二〇〇〇万円で売却したとして、売上処理した。
<2> しかし、平成四年八月二五日、原告は藤岡から丙絵画の返還を受けたとして経理処理を行った。もっとも、この作品の売買代金二〇〇〇万円は返品に至るまでの間藤岡から原告に対して入金されることはなかった。
<3> 本件各処分の調査担当者及び本件処分に対する審査請求手続における島田及び藤岡の供述の要旨は次のとおりである。
イ 島田の供述要旨
「藤岡が客があるというので「鵜」(丙絵画)を売却した。藤岡との一般的取引における代金決済方法は決まってはいないが、普通は契約の後一か月程度でされる。本件でも一か月程度経過して藤岡に決済を要求したところ、もう少し待ってくれとの返事であった。その後、藤岡が売れなかったので返品させてくれと言ってきたのでやむなく引き取った。」
ロ 藤岡の供述要旨
「広島に行った際、島田から「鵜」(丙絵画)をみせられ、私の顧客と契約交渉をするつもりで絵を預かって私の車両で持ち帰った。買ってくれそうな顧客がいたが、結局、成約までには至らなかった。この顧客の氏名を明らかにすることはできない。原告との通常の取引は、作品を預かって帰って顧客と交渉し、売買が成立すれば原告から納品書及び請求書の送付を受け、その後二〇日くらいまでに決済するというものである。」
<4> 丙絵画は平成三年一〇月三一日にレイクの原告に対する貸付金二億円の担保の一部として提供され、レイクに対して質権が設定されていた。しかし、島田は藤岡に丙絵画を売却するに当たり、レイクに対して右担保の解除の申し出をしていない。
(2) 以上の事実関係からするならば、藤岡が原告から平成四年六月に丙絵画の交付を受けたのは、買い受けたのではなく、顧客との売買交渉のために貸与を受けたにすぎないと認めるのが相当である。なぜなら、原告と藤岡との通常の取引経過からすると、藤岡において顧客との間の売買契約が成立した時点で、藤岡が原告から買い受けるのが通例であるところ、本件では藤岡とその顧客との間で成約に至っていないし、六月二四日に契約が成立しているのであれば、その約二か月後に原告から何のペナルティーもなく返品に応じたり、質権者であるレイクに何等の通知をしないといったことは通常では考えがたいからである。
また、藤岡に対して売却されたとされている時期が原告の期末であり、返品時期が期首であることも、前述の甲、乙両絵画取引における原告の行為を勘案すると、単なる偶然ともいうことはできず、実態の伴わない売買であったことを窺わせる一資料であるといわなければならない。
よって、原告の藤岡に対する丙絵画の売上は貸与にすぎないものであって、売買の実態を伴っていないから、その売上計上は過大計上となる。したがって、その課税売上高一九四一万七四七六円は課税標準額から控除することとなる。
(三) 次に、被告主張2(三)(1)<3>(淀井敏夫作「ローマの公園」のギャラリーチトセへの販売)の取引の課税売上高について検討する。
(1) 淀井敏夫作「ローマの公園」の取引経緯について
当事者間に争いのない事実、乙第三、第八号証、証人金気仁史の証言及び原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
<1> 原告は、平成三年六月ころ、ギャラリーチトセの代表者加藤行敏から香川県坂出市のレオマワールド内にある大西美術館にブロンズ像を設置して欲しいとの注文を受け、右加藤、レオマワールドの関係者及び株式会社はくび画廊(以下「はくび画廊」という。)の代表者加藤博美との協議の結果、淀井敏夫作のブロンズ像「ローマの公園」(以下「本件ブロンズ像」という。)を設置することとなり、同年八月二六日、原告は、大西美術館に本件ブロンズ像を設置した。
<2> 原告は、同年九月一一日、本件ブロンズ像の取引先がはくび画廊であると思っていたため、右取引の代金二五五〇万円をはくび画廊宛に請求したが、はくび画廊から、本件ブロンズ像の買主はギャラリーチトセであるから、代金はギャラリーチトセに請求してもらいたい旨の回答を受けた。
<3> そのため、原告は、はくび画廊に対し、本件ブロンズ像の返品伝票を送付するとともに、本件ブロンズ像の売上代金をギャラリーチトセに請求した。しかし、当時、原告はギャラリーチトセから、別件の取引に関し違約金の支払を求められており、原告も相応の違約金支払義務は承認せざるを得ない立場であったところ、原告からの本件ブロンズ像代金支払請求に対し、ギャラリーチトセからは、同社の原告に対する違約金請求権があることを考慮し、本件ブロンズ像代金二五五〇万円のうち、四〇〇万円を支払う旨の解答がされ、平成四年一〇月三〇日、ギャラリーチトセは、原告に対し右売上代金のうち、四〇〇万円を支払った。
<4> そこで、原告は本件ブロンズ像の売買代金を四〇〇万円と計上した。
(2) 以上の事実経緯によれば、本件ブロンズ像の売買代金は、当事者の意識としては、二五五〇万円であったという他なく、原告が本件ブロンズ像の売買代金として計上した四〇〇万円は、原告とギャラリーチトセとの間で、別件の取引に係る違約金を二一五〇万円の限度で、相殺勘定としたものであることが認められる。そして、消費税の課税標準は課税資産の譲渡等の対価の額であるから(消費税法二八条一項)、本件ブロンズ像の売買の対価は、右二五五〇万円であるといわざるを得ない。
なお、原告は、本件ブロンズ像の売却代金は諸般の事情から四〇〇万円となったものであると主張するが、右認定事実に照らし、採用できない。
したがって、本件ブロンズ像の売買代金は過小計上となるから、その正当な売買代金額である二五五〇万円と四〇〇万円との差額から消費税額を控除した二〇八七万三七八七円は、課税標準額に加算することになる。
(四) よって、平成四年課税期間の原告の課税標準額は七億〇一六三万六〇〇〇円であると認められ、その消費税額は二一〇四万九〇八〇円となる。
2 控除対象仕入税額
(一) 原告の平成四年課税期間の確定申告書に記載された控除対象仕入税額は一九九四万一一九五円であることは当事者間に争いがない。
(二) そこで、被告の主張2(三)(3)<2>(乙仕入の過大仕入計上)について検討する。
原告が平成三年七月二〇日に、ギャラリーなかつみから乙絵画を別表七の再仕入金額欄記載の金額で仕入れたとして、これを仕入計上(乙仕入)していることは当事者間に争いがない。ところで、前記三6(一)のとおり、乙売買は通謀による仮装取引であることを考慮するならば、乙売買がされた時期以降、平成三年七月二〇日までの間に原告とギャラリーなかつみとの間で真の売買がされたといった特段の事情がない限り、乙仕入も仮装取引と推認されるべきものであるところ、本件において右特段の事情を認めるべき証拠はない。
よって、乙仕入もまた乙売買と同様、仮装の取引であると認められる。
そうであるとすれば、その仕入計上は過大な仕入計上となるから、右仕入額の消費税相当額である九九万円は控除対象仕入税額から控除することとなる。
なお、乙仕入が仮装の取引である以上、原告がそのための手数料を支払ったとしても、前述と同様、それに係る消費税額を控除すべき理由はない。
(三) したがって、平成四年課税期間の控除対象仕入税額は一八九五万一一九五円となる。
3 以上によれば、前記1から2を控除した額(納付すべき税額)は、二〇九万七八〇〇円となり、被告がした平成四年課税期間の更正処分に係る納付税額は右金額の範囲内である二〇六万九〇〇〇円であるから、右更正処分は適法である。
4 重加算税の賦課決定
右のとおり、平成四年課税期間の更正処分は適法であるところ、乙仕入及び丙売上の各計上は、前述のとおり仮装の計上であるから、課税標準等の基礎となるべき事実の一部を仮装又は隠ぺいし、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことになる。よって、被告のした重加算税の賦課決定処分もまた適法である。
七 まとめ
以上のとおり、被告がした本件各処分には適法はない。
八 よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤誠 裁判官 白神恵子 裁判官 篠原淳一)
別表一
課税処分等経過表(平成二年六月期)
<省略>
別表二
課税処分等経過表(平成三年六月期)
<省略>
別表三
課税処分等経過表(平成二年課税期間)
<省略>
別表四
課税処分等経過表(平成三年課税期間)
<省略>
別表五
課税処分等経過表(平成四年課税期間)
<省略>
別表六
甲絵画の取引経緯
<省略>
別表七
乙絵画の取引経緯
<省略>
別表八
加算及び減算の内訳表
<省略>
別表九の1
平成2年6月期 氏名が真実とは認められない仕入明細
<省略>
別表九の2
平成3年6月期 氏名が真実とは認められない仕入明細
<省略>